本事業は、京都精華大学が2021年度から実施しているアートマネジメント人材育成プロジェクトです。基本的な人権についての知識と表現の倫理をめぐるリテラシーをもち、アートを創造する現場で必要な配慮をしながら実務にあたれる人材の育成を目指し、人種・民族・ジェンダー・セクシュアリティ・階級といったさまざまな権力関係が交差する現代社会の諸側面について学ぶレクチャーやゼミを開講してきました。
最終年度の総合タイトルは「あなたの隣を歩く人がいる」です。マイノリティの権利や脱植民地化といった課題をめぐって地球上のあちこちで平等や公平性を求める声が上がる中、遠くのものだと思っていた問題が不意に自分事になったり、自分が意識を向けていなかった人たちが実はすぐ隣にいたと気づくことがあります。あなたや私の隣を歩く人の中には、すでに知っている人や知らない人、自分と似ているけど少し違ってなんだか気になる人、今はまだ想像できない人が含まれているでしょう。あなたや私は、そのような他者の声をどのように聴くことができるのでしょうか。
こうした問いから、今回のプログラムは「他者の声を聴くこと」について様々な視点で考えることを意図して構成しました。プログラムAのワークショップでは、植民地主義と「聴く/聴かれる」ことの関係や抑圧のなかで生まれる表現に光をあてる実践を手がかりに、私たちはどのように対話をはじめることができるのか、参加する皆さんと探求します。連続レクチャー形式のプログラムBでは、様々な専門的知見を参照しながら、他者の言葉を最後まで聴くこと、全き他者を受け入れてみること、その態度を改めて貫くことから他者理解の問題を考えていきます。プログラムCではメキシコからアーティストを招き、日本ではあまり語られることのない「グローバル・サウス」におけるネオコロニアリズムやインターセクショナルな抑圧の問題と、そこから別の世界を展望する芸術実践について、作品鑑賞を通じて考えます。プログラムDはプログラムA・B・Cでの学びをいかに日々の実践に活かすことができるのかについて、受講者同士で意見交換します。
「他者の声を聴く」ことから私たちが何を考え、どのように他者との関係性をあらたな次元に変容させられるのか。そこにどのような芸術実践がありうるのか。それぞれの受講者が深く思考し体験したことを、それぞれの現場で活かしていただくことができるようなプログラムを提供したいと考えています。