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連続レクチャー形式のプログラムBでは、マイノリティ論の基礎をふまえ、クィア理論や心理学の知見を参照しながら、他者の言葉を最後まで聴くこと、全き他者を受け入れてみること、その態度を改めて貫くことから他者理解の問題を考えていきます。
「マイノリティとは誰のことかー理論と実践から考える」
講師:山田創平(京都精華大学国際文化学部長・教授)
「クィア・スタディーズ概論」
講師:菅野優香(同志社大学大学院グローバル・スタディーズ研究科教員)
「クィア神学概論」
講師:工藤万里江(立教大学 他 非常勤講師)
「パーソン・センタード・セラピー概論」
講師:中田行重(関西大学人間健康学部教授、桂メンタルクリニック(京都)カウンセラー、臨床心理士、公認心理師、PCA-Kansai代表)
現在、世界では人類社会の平等性、公平性を重視する、リベラリズムの新たな潮流が立ち現れてきています。それらは大枠では「多様性(ダイバーシティ)の尊重」「マイノリティの権利擁護」「ジェンダー平等の実現(例えばSDGsの《目標5》)」などの言葉で語られ、さらには「インターセクショナリティ」「SOGIESC(ソジエスク)」「グローバル・サウス」「ポスト/ネオ・コロニアリズム」「BLM(ブラック・ライブズ・マター)」「ダブル/トリプルマイノリティ」など、極めて多岐にわたる論点で言語化されています。私自身、これらの論点はすべて重要であると考えますし、リベラリズムに関する基本的な知識が広く社会に共有されることは意義深いと認識しています。しかし同時に、これらの「言葉」「知識」「理論」にばかり注目が集まる状況に危惧も感じます。
私は1990年代からマイノリティの権利運動に理論の面でも、活動の面でも深くかかわってきました。その経験上、市民のボランタリーな運動を支えるのは「言葉」や「知識」、「理論」だけではないと強く感じるようになりました。それらを下支えする、さらなる「何か」が必要だと感じるのです。それは社会変革に持続可能性をもたらす「何か」であり、人類社会の平等性や公平性について思考しようとするとき、そのベースとなる「何か」です。実は私自身、この「何か」を、いまだはっきりと言語化できていません。かろうじて言葉にしようとすれば、それは「(ひとまず)他者の言葉を最後まで聞いてみる」ということであり、全き他者を「(ひとまず)受け入れてみる」という表現になるでしょうか。「~してみる」という言い方になるのは、その先に何があるかわからないし、その営為をはたして最後までできるのかもわからないからです。この「何か」についてもっと考えてみたい、もう少しはっきりと言語化してみたい、私は今そう感じています。
以上をふまえて、私は今回のレクチャーシリーズにおいて、おおよそ3つの方向性を想定できないかと考えています。一つめは近代以降、国民国家や資本制がいかに権威的で抑圧的で家父長的な社会構造を作り、その内部にいる人々がその構造を内面化してきたかという歴史的事実の確認です(マイノリティ論の基礎)。もう一つはそのような社会構造の新自由主義(ネオリベラリズム)的な変化であり、それらの変化によりもたらされるマイノリティの可視化と不可視化の問題(注目されやすいマイノリティと、注目されにくいマイノリティが出現するということ)です。それは言い換えれば、マイノリティについて語る時、その語り方がそもそも「多様性を持っているか(資本の論理に左右されない多様性)」という問題意識と言えるかもしれません(先端的マイノリティ論/マイノリティ論の現在)。そして最後は、それらの状況に変化をもたらす一つのあり方が、「聞くこと」にあるのではないかという私自身の問題意識です(「話を聞く」という営みに対する原理的考察)。
新自由主義的な世界情勢の中、近年、ダイバーシティの重要性が広く認識され、マイノリティに関する言説は爆発的に増加しました。私自身、これは大変に意義深いことと認識していますが、一方、私が理解し、受け止められる情報量には限度があるとも感じます。情報の渦の中で私は余裕を失っているかもしれません。その「余裕のなさ」が、私自身の「他者に対する想像力」を奪っているかもしれません。私が考えるのは、今この時、「誰にも聞かれていない声があるのではないか」「助けをもとめるその声に私は気付いていないのではないか」と想像する、その想像力と態度の重要性なのです。おそらく、今私がやるべきことは「目の前にいるその人の声を最後まで聞く」ということなのでしょう。なぜなら、それすらできない私が、他の誰かの声を聞くことなど、そもそも無理な話だからです。
今回のレクチャーシリーズでは、上記のような私自身の問題意識をふまえ、その問題意識を深める上で「是非、お話を聞いてみたい」と思う論者の方々をお招きします。
山田創平(京都精華大学国際文化学部長・教授)
菅野優香
同志社大学大学院グローバル・スタディーズ研究科教員
カリフォルニア大学アーヴァイン校Ph.D.(ヴィジュアル・スタディーズ)。専門は視覚文化、クィア理論・批評。著書に『クィア・シネマ 世界と時間に別の仕方で存在するために』(フィルムアート社、2023年)、『クィア・シネマ・スタディーズ 』(編著、晃洋書房、2021年)など多数。
工藤万里江
立教大学 他 非常勤講師
同志社大学神学部卒業、同大学大学院神学研究科博士前期課程修了(修士〔神学〕)、米国Pacific School of Religion修了(Master of Theological Studies)、立教大学大学院キリスト教学研究科博士後期課程修了(博士〔神学〕)。著書に『クィア神学の挑戦──クィア、フェミニズム、キリスト教』(新教出版社、2022年)、共編著に富坂キリスト教センター編『日本におけるキリスト教フェミニスト運動史──1970年から2022年まで』(新教出版社、2023年)訳書にパトリック・S・チェン『ラディカル・ラブ──クィア神学入門』(新教出版社、2014年)。
中田重行
関西大学人間健康学部教授、桂メンタルクリニック(京都)カウンセラー、臨床心理士、公認心理師、PCA-Kansai代表
フォーカシング、エンカウンター・グループの研究から現在のパーソン・センタード・セラピーの研究に至る。著書に『臨床現場におけるパーソン・センタード・セラピーの実務―把握感 sense of grip と中核条件』(創元社、2022年)、訳書にデイブ・メアンズ、ミック・クーパー『深い関係性がなぜ人を癒すのか―パーソン・センタード・セラピーの力』(斧原藍との共訳、創元社、2021年)
山田創平
京都精華大学国際文化学部長/教授
専門は社会学(芸術と地域、マイノリティと地域、都市論)。厚生労働省・外務省所管の研究機関などを経て現職。編著書に『未来のアートと倫理のために』(左右社、2021年)、『たたかう LGBT&アート〈同性パートナーシップからヘイトスピーチまで、人権と表現を考えるために〉』(法律文化社、2016年)。京都市人権文化推進懇話会・専門意見聴取会委員、東山アーティスツ・プレイスメント・サービス(HAPS)実行委員、公益社団法人企業メセナ協議会「芸術・文化による災害復興支援ファンド(GB Fund)」選考委員。
2024年1月21日(日) 11:00-19:00
※各レクチャー回のみの受講可。途中入場/退場可。
京都芸術センター・フリースペース(南館1階)
https://www.kac.or.jp/
100名(要事前申込・2024年1月20日締切)
無料
《無料託児サービス》
若干名受け付けます(先着順)。2024年1月13日(土)までに下記のフォームからお申し込みください。
無料託児サービス申込フォーム
《記録アーカイブの公開》
後日、本WEBサイトの「WEB CONTENTS」で字幕付き記録動画または抄録を公開予定です。
☆ご参加にあたりサポートが必要な方は問い合わせ先までご相談ください。できる限り対応させていただきます。
住所:京都市中京区室町通蛸薬師下る山伏山町546-2
〇JR「京都」駅から地下鉄烏丸線に乗り換え「四条」駅下車、22・24番出口から徒歩5分
〇阪急京都線「烏丸」駅22・24 番出口から徒歩5分
〇京阪本線「三条」駅より地下鉄東西線・烏丸線「烏丸御池」駅下車、4番出口から徒歩10分
〇京都市営バス「四条烏丸」下車、徒歩5分(3・5・201・203・207系統など)