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メキシコを拠点に活動するナオミ・リンコン・ガヤルドによる『ホルムアルデヒド・トリップ』を、上映パフォーマンスと展覧会の2つの形式で紹介します。(日本初演/初展示)
自らを「グローバル・サウス出身の有色のクィアで脱植民地のフェミニスト、ビジュアル・アーティストで、抜け目ない研究者」と語るガヤルドは、近年、人種・民族・ジェンダー・セクシュアリティ・階級といった様々な権力関係を交差的に分析し、リサーチにもとづき神話的な世界観を練り上げています。
2017年に発表された本作は、先住民の土地や女性の権利を守るために活動し、2010年に凶弾に倒れたベティ・カリーニョ(1973-2010)が冥界を旅する物語です。新大陸の探検家によってホルマリン液で保存されたアホロートル(メキシコサンショウウオ)がガイドとなり、過去と現代におけるネオコロニアルな環境をたゆたう亡霊や精霊たちと共に、視る者を黄泉の国の旅路へと案内します。
All photos: courtesy of the artist.
本作品から私が受け取ったのは、「あなたは、クィアな何かになれる」「別のかたちの世界に憧れ、欲望することをあきらめるな」という強いメッセージでした。
グローバルな資源の収奪が引き起こす格差と暴力の問題を抱えるメキシコの社会に暮らす者と、日本の社会に暮らす者とは、互いに遠い他者のように思えるかもしれません。
しかし、ガヤルドの別の世界を想い描こうとするエネルギーは、私たちの足元をも照らし、あなたや私と他者が共にいる世界を想像させ始めます。プログラムCではその経験を受講生の皆さんと共有し、私たちがどのような未来に行きたい/生きたいのか共に考えたいと思います。
(内山幸子・本事業プロジェクトコーディネーター)
「ホルムアルデヒド・トリップ」は、凶弾に倒れたミシュテカの環境保護アクティビスト、ベティ・カリーニョ(1973-2010)が冥界を旅する様子を想像した作品である。
この政治的かつシュールレアリスム的な時を超える旅には、メソアメリカの神々や魔女、動物などが多元宇宙より来たる仲間として加わり、ベティの遺したものが果てなく広がるよう、彼女と共に歩んでケアをする。ベティは自らが殺されたその瞬間を起点に、死者の世界から語り掛ける。
その旅は、彼女がメキシコの月の女神コヨルシャウキへと変貌してゆくプロセスそのものだ。グロリア・アンサルドゥーアによれば、夜の力を体現するコヨルシャウキは、バラバラにされた自らの体を繋ぎ合わせることで重傷から回復する力を持っているという。
アンサルドゥーアの「コヨルシャウキの急務」論は、まさにこの力から誕生した議論である。また本作には、ホルマリン漬けにされたアホロートルが、語り部、教育を受けたガイド役の先住民、アレクサンダー・フォン・フンボルト(ドイツの博物学者・探検家。1769-1859)の欲望/研究の対象、増えゆくディルド、癒しのカプセル、そして過去と現代における植民地的なエクストラクティビズムの間をたゆたう亡霊めいた存在として登場する。
(字幕:日本語・英語/オーディオ言語:スペイン語・英語・ドイツ語/2017年)
日本語字幕翻訳:林かんな
日本語字幕制作協力:有限会社ホワイトライン
ナオミ・リンコン・ガヤルド Naomi Rincón Gallardo
アーティスト
ナオミ・リンコン・ガヤルド(1979年生まれ)は、メキシコシティとオアハカを行き来して暮らし、活動するビジュアルアーティスト。
脱植民地主義的クィア(cuir)の視座から、リサーチに基づきつつ批判的観点を取り入れた神話的な世界観を練り上げ、ネオコロニアルな環境における対抗世界の創造について考えている。
シアターゲームやポピュラーカルチャー、メソアメリカの宇宙論、スペキュレイティブ・フィクション、土地特有の祭礼や工芸、脱植民地主義的フェミニズム、そしてクィア・オブ・カラー(有色のクィア)批評への関心を融合させた作品が特徴。ウィーン美術アカデミーの実践プログラムで博士号を取得。
近年の展覧会やパフォーマンス公演に、マドリードのLa Casa EncendidaにおけるTzitzimime Trilogy〔ツィツィミメ三部作〕(2023年)、第59回ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展(2022年)、第34回サンパウロ・ビエンナーレ(2021年)、オアハカ現代美術館におけるUna Trilogía de Cuevas〔洞窟三部作〕(2020年・単独公演)、クンストラウム・インスブルックにおけるMay your thunder break the sky〔あなたの雷が空を砕かんことを〕(2020年・単独公演)、第11回ベルリン・ビエンナーレ(2020年)、メキシコシティのエル・エコ実験美術館におけるHeavy Blood〔重き血〕(2019年・単独公演)がある。
2024年1月13日(土)~1月28日(日) 13:00-19:00
※水・木曜日は休廊
Gallery PARC
https://galleryparc.com/
無料(事前申込不要)
エレベーター、多目的トイレあり
住所:京都市上京区皀莢町287(堀川商店街北側)
〇京都市営バス「堀川中立売」下車、徒歩1分(9・12・50・67系統)
〇地下鉄烏丸線「今出川」駅、「丸太町」駅から徒歩20分
〇地下鉄東西線「二条城前」駅から徒歩15分