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2023.12.16

I SEE YOUについて

誰かを、自分自身を、「見る」こと。カナダ在住の編集者・吉田守伸による、トロントのBIPOC(黒人・先住民・有色人種)コミュニティを支える人々の姿と文章を紹介していく連載企画。

#2 僕が運んでいくもの

バシアー・アブドゥッラー・ムハメド・ダグラス(a.k.a スニフィア・セナ・ホテップ)

聞き手 = 吉田守伸

JP/EN

著者のプロフィール写真

©Kate Dalton

 

── バシアーはいつも道で会った人に挨拶したり話しかけたりするよね。他の人の存在を見て取ってそれを相手に伝えるっていう行為は、バシアーにとってどんな意味があるの?

 

僕が育ったコミュニティでは、お互いに挨拶を送り合ったり感謝を示したりするのが当たり前だったんだ。相手の存在を見て取る、認めるっていうのは、単にその人を目で見るということとも違う。その人の中を見通す、ということなんだよね。僕が誰かを見る時、僕はその人の存在を見ている。そこには、あなたに会えて、あなたを感じられて、ただあなたのそばにいられて嬉しい、というメッセージがある。ほかの人のことを見ようとしない人もいるけど、誰だって人から見てもらいたいし正当に扱われたいと思っている。だから僕はいつもこう言う。「あなたが見えてます。あなたが見えてます。誰もあなたを見ていなくても、僕には見えてます。あなたの存在を認め、あなたに感謝します。」それは木とか水とか元素──それらすべてに、感謝を伝えることとも近いかも。

 

── 人間だけではなくて。

 

人間だけじゃない。なんというか、生命そのものみたいな。鳥がやってきて僕に歌いかける時も、僕はこう言う。「鳥さん、姿が見えてるし、聞こえてるよ。歌声をありがとう。そこにいて、僕に君の歌声を聞かせてくれてありがとう。」ね? アフリカやほかの先住民の人たちの霊的な教えによると、メッセージというのはあらゆる形を取る。水の中にも、空気の中にも、人々の振る舞いの中にも、物が動く様の中にさえ、メッセージはある。僕たちの先生みたいなもの。それらは僕たちを霊的に導いてくれる存在で、見守り手でもある。だから、そうしたメッセージへの感謝の意味で、僕はほかの人の姿を見て取って、それを相手に伝えるんだ。


── 今度は、バシアーがいつも持ち歩いてるメディシンバッグ※1について、それが何を表しているのか、中に何を入れているのか聞かせてくれる?

 

一つ目のメディシンバッグは、妹からもらったんだ。もともとは、妹がお父さんとほかの妹と一緒に北米の先住民の集まりに行った時に、そのコミュニティにいた女性からもらったものなんだけど。その人は、バッグに縫い付けられたメディシンウィール※2に使われている四つの色について妹に語ってくれた。彼女は、ここには黒、赤、黄、白があるね、と言った。これは、この星に住む四つの人種を表したものなんだと。黒は黒人 = アフリカ人のこと。そして、黒から黄と赤が生まれた。赤は先住民、黄はアジア人のことを指していると取れる。最後に、黒から生まれたのが白 = ヨーロッパ人。彼女は、敬意と感謝があれば、これらすべての人種が自然へと回帰できるんだと語った。

このバッグを持つようになってからたくさんのコミュニティを回ってきたけど、そこで出会う人たちが四つの人種にまつわるたくさんの物語を、この星を救うためにはこれらの人種が再び一つにならなければいけないということを、僕に語ってくれるんだ。

 

── つまり、そのバッグを見た人たちが、自分の知識を共有してくれるんだね。

 

そう、そういうこと。だから、このメディシンバッグを身につけて歩く時は、誇らしい気持ちで歩くんだ。自分のご先祖たちを代わりに背負ってるからね。ご先祖だけじゃない、この星の上のすべてのコミュニティと人々、それからこの星そのもののことも。

バッグの中には、先住民の人たちや友人たちからもらった石をいくつか入れてる。それからこのアンク(輪付き十字架)※3も。アンクというのは結合と「四位一体」を示す原初のシンボルなんだ。アンクの頭部は子宮をかたどっていて、母親もしくは女神たちを表している。底部は陰茎をかたどり、父親もしくは男神たちを表している。両側の棒は娘と息子を表す。アンクは調和と、互いへの敬意を表しているんだ。それから、ティーバッグについてくるおみくじ※4もたくさん入れてるよ。これなんかすごく好きなんだ。「初めに汝あり、間に汝あり、終わりに汝あり。」こういう心をどっしりと落ち着かせてくれる言葉が書かれたおみくじが本当にいっぱいあるんだ。それから翡翠石とファイアストーンもここに入れてるよ。

 

── もう一つのメディシンバッグも見せてもらっていい? これはアフリカ風の柄の生地だよね?

 

うん、そう。これはアフリカのメディシンバッグ。これはハリエット・タブマン・コミュニティ・オーガナイゼーションという団体にいた女性からもらったんだ。ハリエット・タブマンという人は奴隷解放の闘士で、アフリカ系の人たちだけでなく、白人至上主義の下で抑圧者に抵抗しようとするすべての人のために闘った。彼女は「地下鉄道」※5を通じて人々を導き、助けた。(バッグから名刺を取り出しながら)このバッグを僕にくれた女性の名前はイクア・アンドゥリア・ウォルコットと言って、僕が直面したたくさんの困難を乗り越えるのを助けてくれた。彼女は、世界中から来たたくさんの人たち、とりわけ北米、アフリカ、アジア、ヨーロッパ、南米出身の人たちのことも助けていた。この大陸中から集まった僕らの姉妹たち、兄弟たちをまとめあげ、組織化したんだ。(このバッグを持ち歩くことで)僕は彼女に感謝を捧げてる。僕の道のりと模索を助けてくれたことに対して。それからこのセージ、シーダー(ヒマラヤ杉の針葉)※6、ほかのいろいろな石たちも一緒に入れてるよ。

 

── そうすると、メディシンバッグの中身は、自分で手に入れたものではなくて、誰かからもらったものたちなんだね。

 

そう、ここに入れてるものの多くは、僕が行ったいろいろなパウワウ※7で世界中の先住民の人たちから僕に授けられたものなんだ。いわば交換会みたいなもの。僕たちは何かをそこに残して、何かを持ち去る。逆もまた同じ。彼らが何かを残して、何かを取っていく。

これら全部を携えて、ご先祖に感謝を捧げながら僕はあちこち歩く。ご先祖だけじゃなくて、自分にも感謝を捧げて。だって、僕も義務を果たしているからね。僕らは義務を果たしている、そうでしょ?

 

── それについてもうちょっと説明してもらってもいい?

 

僕たちの起こす行動というのは、自身のためだけじゃなくて、自分たちの中に宿っている人々のためでもある。僕たちのご先祖の多くは使命を果たせなかったり、旅路を終えられなかったりした──僕たちがここにいるのは彼らの歩んだ道を歩き終えるためでもある。彼らが身を落としたあらゆる束縛、あるいは霊的な束縛から、彼らを解放するために。ご先祖たちの多くはまだこの星に留まっていて、身動きが取れないでいる、そうでしょう? すすり泣いてるみたいなものだ。僕たちは自分という器を使ってご先祖たちを解き放つためにここにいる。だから、彼らが歩けなかった歩みを、僕たちが歩いている。彼らが言えなかったことを、僕たちが言っている。

 

── ありがとう、バシアー。

 

 

訳注


※1 薬草やお守りなどを入れて持ち歩く小さなポーチのこと。

※2 北米先住民の人々にとって重要な四つの要素を表した神聖なシンボル。四分割された円のそれぞれに黄色、赤色、黒色、白色が塗られており、一つ一つが季節(春夏秋冬)や方角(東西南北)、四元素(風火水土)、人生のステージ(幼年期・青年期・成人期・老年期)、四つの存在のあり方(霊的・物理的・感情的・心的)などを表す。

※3 古代エジプトで用いられた十字架の一種で、頭部に楕円がついた形状をしている。

※4 ティーバッグの紐の先の持ち手の部分に格言や詩の一節などが印刷されたものをここではおみくじと呼んでいる。

※5 アメリカ南部で奴隷として支配されていた人々を北部の自由州やカナダへ逃がす手助けをした秘密のネットワーク。ハリエット・タブマンはその中心的な人物の一人で、自身も奴隷状態から逃れたのちに奴隷制廃止の旗手となり、数多くの人々を解放に導いた。

※6 セージとシーダーはいずれも北米先住民の人々が伝統的に用いる代表的な薬草。

※7 北米先住民の人々が複数の民族で開く集会のこと。伝統的なセレモニーと祝宴に起源をもちつつ、近代に入ってから植民地支配への抵抗と文化の復権を目的に始まった。集会では必ずドラムの音が中心を占めていて、美しい衣装を身につけた踊り手たちが音楽に合わせて輪になって踊る。パウワウはまた美しい工芸品や美味しいご飯に出会える場所でもある。

 

著者プロフィール

バシアー・アブドゥッラー・ムハメド・ダグラス(a.k.a スニフィア・セナ・ホテップ)

起業家、コミュニティワーカー、フロントラインワーカー、スピリチュアルアドバイザー、メディシンマン(コミュニティに癒しをもたらす人)、「あなたの未だ見ぬ友人」。トロント近郊の人々に国内外の栄養健康商品を提供する先進的な健康専門店、バシアー・カルチュラル・ヘルス・プロダクツ・コーポレーションのオーナー。人々に身体を大切にするよう呼びかけ、手助けをすることにいつも情熱を燃やしている。本名の意味は「良き知らせをもたらす者」および「上等な男」。また、のちに「美しき彼すなわち、美しき平和の同胞」を意味するスニフィア・セナ・ホテップという名前を授かる。夢は自分自身のみならず他の人々にも全的・霊的な癒しと励ましをもたらすヒーローになること。

 

(訳 = 吉田守伸、監訳 = 佐藤まな)

 

次回、12月下旬更新予定