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2024.01.04

I SEE YOUについて

誰かを、自分自身を、「見る」こと。カナダ在住の編集者・吉田守伸による、トロントのBIPOC(黒人・先住民・有色人種)コミュニティを支える人々の姿と文章を紹介していく連載企画。

#3 滴りきらめく、あなたが見える ― コミュニティ、連帯、愛

ファラ・タラート

JP/EN

著者ファラ・タラートのポートレート写真

©Kate Dalton

 

 

あなたに話したい

ガザにあるジョージ・フロイド・メモリアル※1のこと

みんながひとりぼっち、ばらばらになってるような時代に、その生と死で 愛と

生と思考とアートと人間性を もういちど花咲かせたひと

この資本主義システムは快適でおかしいところなんかない その思いこみをパンデミックは打ちくだいた

あのシステムの中では誰もがアッラー(神)に乞い願ってた 自分に成功を、成功を、成功を

くたびれきるまで労働を、労働を、労働を

札束の袋を手に入れてはグローバルサウス※2の家族に背負わせる

幸福にいろどられた彼らの生活を 「みじめ」としか見られないわたしたちは

自分の価値を決めてゆく 光りものやジュエリー ダイアモンドやゴールドで

そのきらめきから滴り滴る、鉱山から搾りとられた血 アフリカの人々が暑さと過労で死んでいくのは、豊かなはずの土地の上

そう、あまりに豊かだったから、あいつらは容赦なく征服した あいつらなしではやっていけないとわたしたちに信じさせるために

そしてわたしたちは今、喉をつまらせてる 自分の血で汚された、滴り滴る水で

ほんとうに必要なのはハグだったのに、たがいに殺しあっているせいで

 

 

ほら わたしは毎日シスターたちとほほえみあう

コップから滴り滴る、愛に満ちたしあわせ 時にはからっぽ、時にはあふれそう それをたがいに注ぎあう

わたしたちは必ず唱える マーシャッラー(神がそれを望まれた)

アルハムドゥリッラー(神を讃えよ)

だってシスターの顔をまっすぐ見て、こう言えるから

アナー・バヘッベク(愛してる)

あたたかな夏の日にそう、恵みの言葉を

それから 自分たちの言語と愛と文化を力強くたずさえた友人たち

オジブウェ、クリー、ミーティ、亀の島※3のあちこちと世界中にルーツをもってる

その口が「イード・ムバーラク(イード※4おめでとう)」や「サラーム・アライクム(あなたに平和が訪れますように)」と言うとき

わたしの心臓は芯まであったまる

見て ファレスティーン※5にいるジョージ・フロイドは暗闇の世界に差す光、そしてそれより大きなもの

それは連帯 形となった愛 そしてすべての人のためのすべての人による自由

シアバター、ブラックソープ※6、わたしの人生はずっと一本の映画、この詩はその続編なんだ

 

 

小さな革命のしるしに わたしはいつも電話やおしゃべりをこう終えるようにしてる

「愛してるよ」 「気をつけてね」

「元気でいてね」

「マアッサラーマ(帰り道に平安を)」

トラウマによって今のかたちに押し込められる前、自分がなにものだったのか それを思い出すには距離が必要

その距離がくれる心の平安をたずさえて旅に出よう

ほら わたしのトラウマはがんに変化して、体内でどんどん大きくなった

背中にかぶさる岩のような重み それを削りとってゆくため、わたしは自分に言いきかせる

「わたしは正しい道を歩んでいるはず」

「わたしを取り巻く世界が、創造のためのインスピレーションをくれる」

「わたしは強くて、安全な場所にいて、心配はない。すべて大丈夫」

 

 

この体にタトゥーとして彫られた、愛の言葉そして図像 すべて失ったものをかみしめて、美しいものを見るためのもの

時には鏡を見て エクスタシーにつつまれる

水も滴るイケてるわたし 革命とは自分を愛すること

わたしの中とまわりでたゆたい花咲こうとするものたち 生命、原子、分子、穀物、細胞、文化、コミュニティ、伝統、抵抗、愛、I SEE YOUのメッセージ

あのファレスティーンのジョージ・フロイド・メモリアルは、わたしに平安をくれた 海の向こうの希望

ハンプトン※7にならって言う 「わたしは革命家だ!」

連帯のために血を流す、大きな心臓をかかえて

だって、それはただの言葉じゃない

可能性に満ちた、きらめく未来への約束なんだ

必要最低限の安定がみんなに与えられたドゥンヤー(世界)を想像してみよう……

 

 

サバイバルモード 戦うか逃げるか そんなトランス状態はくたびれる

ひたすら走って行き先は棺、そんな類の人生なんて

滴りきらめくダイアモンドも水もわたしには同じもの

わたしにとっての豊かさは永遠に続く生そのもの

 

 

訳注


※1 ジョージ・フロイドは2020年5月25日に米ミネソタ州のミネアポリスの路上で警察官によって殺害された黒人男性。彼が殺される様子は映像に記録されてインターネット上で拡散し、アメリカを中心に人種的正義を求めるグローバル規模の運動を引き起こした。世界各地の路上で彼の生と死を記憶するための壁画が描かれたが、パレスチナ・ガザ地区にあるメモリアルもその一つ。こちらのURLで壁画の制作風景とアーティストのインタビューを観ることができる。

※2 資源や労働力の搾取など、グローバルな資本主義の下で負の影響を被っている地域や人々のこと。

※3 「亀の島(Turtle Island)」は北米先住民の人々が北アメリカ大陸を指して使う呼び名。様々な先住民族に伝わる世界創造の神話に基づいており、入植者がつけたアメリカという呼称に代わるものとして脱植民地化の流れの中で積極的に用いられている。

※4 イードはイスラム教の二大祝祭のことで、ラマダーン(断食月)の終わりに開かれるイード・アル・フィトルと、預言者イブラーヒームの信仰を讃えて行われるイード・アル・アドハーがある。

※5 パレスチナのこと。原文の音(Falestine)に近い表記とした。

※6 シアバターは西アフリカ・中央アフリカ原産のシアの木から取れる植物性油脂のことで、皮膚のトラブルや乾燥を防ぐローションとして何千年にもわたり使われてきた。ブラックソープは西アフリカの伝統的な製法で作られる石鹸のことで、植物の灰を混ぜ込むため黒い色をしている。両方とも、アフリカにルーツを持つ人々のあいだで広く愛用されている。

※7 アメリカの活動家でブラックパンサー党イリノイ支部の指導者だったフレッド・ハンプトンのこと。彼は黒人差別と闘いながらも人種や民族を超えた連帯を重視し、ブラックパンサー党と他の諸団体から成る連合「レインボー・アライアンス」を組織した。「私は革命家だ(I am a revolutionary)」は彼が演説の中でたびたび用いたセリフで、聴衆にもこの言葉を復唱し変革の主体となることを呼びかけた。

 

著者プロフィール

ファラ・タラート

エジプト出身の詩人、メディアホスト、 イベントプランナー、ウーマニスト、ユース/コミュニティワーカー。若い世代のリーダーとして、トラウマへの理解と配慮に基づき、社会の抑圧への抵抗とそこからの解放を目指した実践を行っている。「ソリダリティー・スペシャリスト」(人々の連帯を促進する専門家)として、先住民と非先住民の若者同士の連帯の根っこを探り強化するための数多くのプログラムやワークショップを取り仕切っている。グローバルな先住民の食糧システムを尊重することで食糧問題の解決を目指す団体、WIISININの共同設立者でもある。あらゆる抑圧下にある人々が続々と解放される世界を夢見て、連帯、食糧安全、健全なコミュニティの実現、そして回復と抵抗への道筋としてのクリエイティブ・ライティングに多大な情熱を傾けている。インスタグラムで気軽にフォローを!(@pharaohhhhtt)

 

(訳=吉田守伸、監訳=佐藤まな)

 

次回、1月中旬更新予定